Google Chrome OSは普及するか?

Google Japan Blog: Google Chrome OS のご紹介
http://googlejapan.blogspot.com/2009/07/google-chrome-os.html

Googleが新しいプロジェクトを発表しました。その名はGoogle Chrome OS。Chromeと呼ばれるGoogle製のWebブラウザをメインのユーザーインターフェースとする、LinuxベースのOSです。搭載されたパソコンが発売されるのは、予定では来年の10月。最初のターゲットはネットブックということです。

Google Chrome OSとHTML5

日常的なパソコンの使い方がほとんどブラウザ上で済んでしまう現在にあって、Googleの提案は見かけほど現実離れしたものではありません。ブラウザ上で動くっていうことはネットワークに繋がっていないと動かないの、と心配が真っ先に出てきそうですが、この問題はChromeが将来的にサポートするHTML5の「オフラインアプリケーションキャッシング」機能によって解決できます。これはWebページの構成を丸まるローカルにコピーしてしまうという機能で、これによって例えば一度でもGoogleドキュメントを使ったことがあれば、ネットワークに繋がっていなくても以前開いたドキュメントを開き、編集することができます。
HTML5は未だ策定中の規格ですが、大きな目的として、元々文章を表現するために作られたHTMLという規格を大幅に見直し、Webブラウザにローカルアプリのような自由度をもたらすということがあります。まさにGoogle Chrome OSのために作られたような規格です。
来年の10月というGoogle Chrome OSの少しゆっくりしたスケジュールは、HTML5の正式な勧告が2010年9月に行われるということと無関係とは言えないでしょう。
HTML5は他にも以下のような機能を実現します。(あくまで一例です。)

  • ローカルのデータベースに値を保存する。その値を検索して取得する
  • ブラウザ画面上に絵を描く
  • Flashに頼らなくても音楽や動画を再生できる(この機能は実装者同士の思惑の相違で怪しくなっています)
  • ブラウザ画面上でドラッグアンドドロップを行う

現在ローカルアプリで行っているようなことは、重いゲームを除けばほとんどできそうですね。

ネットブックLinuxが載っていたころ

さて、Googleのこの新しい提案は世間に受け入れられ、普及するのでしょうか?
少し以前のことを振り返ると、ネットブックが出始めた最初の頃は、WindowsではなくLinuxが搭載された機種も多くありました。例えば初代EeePCに最初に搭載されたのはLinuxです。(【特別企画】台湾ネットブック開発者インタビュー ASUSTeK編
この理由は単純で、Windowsの価格がネットブックの価格帯と比較してあまりに高すぎたためです。299ドルで売るPCに、99ドルもするOSを載せることはできません。これを機会にLinuxが普及するのを恐れたマイクロソフトは、WindowXPをスペックの限られたPCに特別に安く提供することによって対抗しました。現在、ネットブック用のWindowsXPは、一台あたり32ドルで提供されているそうです。
値段が同じくらいであれば、ユーザーは明らかに、使い慣れた汎用性の高いものを選びます。これによって、ネットブックのほとんどはWindowsXPを搭載するようになってしまいました。

Windows7の価格はどうなるか?

というわけで、身もふたもないようですが、Google Chrome OSが普及するか否かは、Microsoftが新しいOSであるWindows7をどの程度の値段でネットブック向けに提供するかにかかっています。
マイクロソフトは既に、Windows7に「Starterエディション」という低価格パソコン向けのエディッションがあることを明らかにしています…が、その価格はまだ明らかになっていません。これがWindowsXP並みの価格で提供され、かつWindows7が期待通りネットブックでも問題なく動くのであれば、Google Chrome OSに勝ち目はないでしょう。
では実際、Windows7のStarterエディッションはどのくらいの値段で提供されるのでしょうか?これは正直、Windows7が出てみないとわからないです。ただ、低価格で提供しているネットブック向けのWindowsXPが、マイクロソフトの収益を押し下げているということはありますので、WindowsXPよりは高くなるのではないか、という予想はできます。

Google Chrome OSと新しいフォームファクタ

Google Chrome OSにもう一つチャンスがあるとすれば、それは今までとは違うフォームファクタを作ってしまうことです。現在のネットブックは、AtomというIntelの省電力CPUと、一世代前のグラフィック統合型チップセットで構成されています。Intelは2010年にこの構成を、Moorestownと呼ばれる新しい構成に一新する予定です。(【後藤弘茂のWeekly海外ニュース】 次世代Atom「Moorestown」がCOMPUTEXでお披露目か)MoorestownはCPUコアこそAtomから変わらないものの、チップセットが一新され、CPUと一部統合されることで大幅に消費電力が軽減されます。実装面積も小さくなるということで、今のネットブックよりさらに小さい、まるで一昔前のWindowsCE機のような小型PCも実現可能になってくるでしょう。
このくらい小型になると、今流行しているネットブックのようにハードディスクを搭載することはできません。Windows7のリッチなUIも邪魔になってきます。こういうフォームファクタGoogle Chrome OSがうまくマッチして、快適に動くようなら、チャンスがあるかもしれません。
ただ、GoogleにはAndroidというOSもあり、これは携帯電話サイズの機体をターゲットとしています。また、次世代ネットブック向けには、Google Chrome OSと同様にLinuxベースで開発されているMoblinというOS(正確にはLinuxディストリビューションの規格)もあります。この隙間でうまく立ち回るのは、かなり難しそうです。

Google Chrome OSは普及しなくてもいい

一方、Googleの戦略としては、Google Chrome OSは別に普及しなくてもいいという考え方もできます。

Joel on Software

Joel on Software

開発者でありエッセイストであるJoel Spolskyさんのエッセイ集"Joel on Software"の一節に、次のような有名な記述があります。

スマートな企業は彼らの製品の補完材をコモディティ化しようとする。

ちょっと言い方が難しいのですが、要するに製品はその土台となるものが普及すればするほどよく売れる、ということです。例えば、IBMは最初にIBM-PCを作ったときに、その部品の仕様を注意深くドキュメント化しました。それによって、パーツに互換性が生まれ大量に製造されるようになり、IBMは安くPCを製造できるようになりました。一方マイクロソフトは、IBMにOSを提供するとき、独占契約にはせずに、同じ規格でPCを作っていたメーカーにも同様にOSを提供できるようにしました。PCが広く普及するにつれて、マイクロソフトは大きな収入を得ることができました。
そしてGoogleにとっての補完材とは、ブラウザに他なりません。ブラウザを、いつでもどこでも便利に使えるようにし、コモディティ化することが彼らの利益を最大化します。
Google Chrome OSが脅威となって、Windows7のStarterエディッションが安価に提供されれば、ネットブックを便利に使う人が増えるわけですから、Googleにとっては良いことです。もちろん、Google Chrome OSが普及してもブラウザのコモディティ化は進みます。

というわけで…

予想としては、Googleマイクロソフトネットブック向けのWindows7を低価格で売らざるをえないように、Google Chrome OSを本気で作り込んでくると思います。普及するかどうかはマイクロソフトの対応次第ですね。個人的にはGoogle Chrome OSが新しいフォームファクタを開拓してくれることを期待したいです。2010年も面白い年になりそうですね。